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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)2233号 判決 1953年11月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人青山樹左郎の上告趣意について。

一、論旨は、第一審判決が詐欺の単独犯として起訴された被告人の所為を、訴因変更の手続を経ることなくして、詐欺の共同正犯とし、原判決もこれを維持したことを以て判例に違反するものと主張する。しかしこのことは訴訟趣意として主張されず、従って原審の判断を経ていない事項に関する主張であるから上告適法の理由とならない。のみならず、本件のような場合には、単独犯として起訴されたものを共同正犯としても、そのことによって被告人に不当な不意打を加え、その防御権の行使に不利益を与えるおそれはないのであるから、訴因変更の手続を必要としないものと解することが相当である。(最高裁判所昭和二六年(あ)七八号同年六月一五日第二小法廷判決参照)。従って原判決にはこの点に関して所論のような法令違反もない。

二、論旨は次に原判決の法令違反を前提としてこれを憲法三一条に違反するものと主張するけれども、原判決には所論のような法令違反は存しないのであるから、所論はその前提において既に失当であり、採用することができない。

三、弁護人からなされた証人尋問の申請を第一審が却下したことは所論のとおりである。論旨はこの措置を以て憲法三七条三項の違反と主張するけれども、憲法の右条項は、裁判所に対して、被告人側の申請にかゝる証人をすべて取調べなければならぬという義務を課しているものでないこと、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)八八号同年六月二三日大法廷判決)の示すとおりであるから、論旨は理由がない。

四、第一審判決は被告人の司法警察官に対する第一及び二回供述調書を証拠としている。しかしこの供述が取調官の強要に基くものと認められるような証跡は存しない。(却て第一審第四回公判調書によれば、被告人及び弁護人はこの供述調書を証拠とすることに同意している)。それ故原判決が憲法三八条一項及び二項に違反したものであるとの論旨は採用することができない。原判決はまた右の各供述調書における自白のみで被告人の有罪を認定したのではなく、これを補強するに足る他の証拠をも併せて採用しているのであるから、憲法三八条三項に違反するものでもない。

五、その余の論旨は結局、事実誤認、量刑不当もしくは審理不尽等の主張に帰し、いずれも刑訴四〇五条の定めた上告理由にあたらない。

また記録を調べてみても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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